【前編】「営業力」は営業だけのものではない。新しい「営業力」の定義で、誰もが前向きに営業を捉えてほしい

編集部 川辺秀美さんインタビュー

いま好評発売中の新刊『シン・営業力』。「営業力」というと「コミュニケーションが上手い」「話し方が上手い」といったイメージがありますが、本書では、その本質は「営業しない」営業にあると説いています。「営業しない」営業とは、「営業しなくても、お客さんのほうから仕事を提供してくれる」システムで、そのシステムをつくることができれば「売り込まなくてもいい」のです。AI時代が本格的に到来し、営業力が問われるなか、その本質をわかりやすく解説しています。

今回、本書を編集した川辺秀美さんに、広報の濱中が編集の背景や本書で定義する「営業力」について、詳しくお話しを聞いてみました。その前編をお届けします。

本書は「営業」に関する本をつくろうと思ったところからスタートしたのでしょうか?

川辺:そうです。「営業」というテーマで本をかいてくれる著者を、YouTubeで探しているときに天野さんを見つけました。編集部で企画を出し合う「企画会議」の寸前に声をかけたのですが、良い返事をもらうことができました。

天野さんと書籍をつくることになって『シン・営業力』というタイトルを決めたのでしょうか。

川辺:『営業しない営業』っていうタイトルを当初は考えていました。天野さんがよく口にしていたフレーズで、天野さんご自身も気に入ってくれていました。でも『営業しない営業』は面白いコンセプトではありますが、読者に通じにくいのではという懸念があったんです。

『シン・営業力』というタイトルはどのようにして生まれたのでしょうか。

川辺:実はタイトルは、出版営業部からの案がもとになっています。最初に『シン・営業』という提案をもらったんです。でも「営業力」を定義した本をつくりたかったので『シン・営業』ではなく『シン・営業力』でいこうと決めました。「営業」のテクニックを紹介するのではなく、「営業力」というものを新しく定義したかったんですよね。「営業力」は営業という仕事をしていない人たちにも必要な能力ですし、営業担当以外の方たちも面白く読める本だと思います。

最近では、マーケティングと営業はよく比較されています。それで営業をする人たちはマーケティングをしたいと思っている。でも改めて考えたときに営業って、ものすごく重要なものだと思うんです。自分はことさら営業経験がほぼなくて。だからこそ営業の重要さが分かるんですよね。例えば、営業力があれば社長になれます。社長になれる人に営業力のない人はいないですよね(笑)。

例えば編集者でも有能な人は高い営業力があります。要するに、どんな分野でも営業力や営業マインドセットが高いことは、仕事の成果を生む源泉になります。だからその「営業力」というものを新しく定義することで、読者が営業のフレームを捉えなおしてもらえればと思いました。世の中の営業マンたちが「営業はカッコ悪いもの」とか、「どうして営業になってしまったんだろう」なんて思ってもらいたくない。営業のフレームを捉えなおすことで、営業はすごくポジティブな意味に捉えられると思います。マーケティング時代になっても、実は「営業の地位はいつまでも高い」ということを何か本全体で示せたらいいなと思いました。

マーケティング時代だから営業はいらない、という話にはならないということですね。

川辺:そうですね。マーケティングというのはどちらかというと、データ分析とかもう少し深い文化理解とか、大きな枠組みだと思います。営業みたいな「ものを売る」ことをしない代わりに、何かをつなぐような役割をします。そういった意味では、マーケッターは、営業と開発の間に立ったり、営業とコンシューマの間に立ったり、「ブリッジする」役割をもつと思います。深く分析したり、いいパスを渡したりすることが求められる。なのでマーケティングが間接的なぶん、ダイレクトにものを売る営業がいなければ成り立たないんですよね。フロントに立つ営業マンがいるから、マーケティング戦略が活かされるんです。

営業の大切さを強く感じます。

川辺:営業は会社の中で一番大事だと思いますよ。「営業力」はマーケッターにも必要だし、何かものを作る人、例えば編集者にも必要です。営業力のない編集者が本をつくると、いくらそれが良質なコンテンツであろうと売れないんですよね。今重要なのは、クリエイティブでもオリジナリティでもない。この本では最終的に「ギバー」の話を通して、与え続けることの大切さを伝えています。「自分たちが信じていること」、「良いと思っていること」をお客様に対して与え続けることが一番大切であり、それが本当の営業だと結んでいます。本心から良いと思っていることを自信をもって提案する、というのは経済活動においてすごく健全だと思いますし、私たち一人ひとりが職種に関わらずそういう役割を果たすことが重要になると思いますね。

営業のテーマですが、どんな職種の方にも自分事として読める本になっているという気がします。

川辺:編集者として作り手から考えると、この本は「編集」のことを書いているといえます。営業も編集も、ほぼ骨格は一緒かなと思います。営業って話す上手さでもなければ、聞く力でもない。この本が伝えたいことのひとつに「営業力」とは「情報力」だという話がありますが、それは「あなたの話をしっかり聞いていますよ」という話でもなければ、話術が必要だというものでもなく、結局相手に相対したときに、どれだけ情報をつかめるか、ということなんです。相手が考えていることの真意は何なのか、ということを取り出し、分析できるかどうか。その分析を正確にすることによって、打ち出すボールが決まる。なので分析と同じくらい「正確な情報を持っているか」ということも、とても重要になってきます。もっている情報の量で打ち手とその質が大きく違ってきます。

まずは相手の情報をどれだけ正確につかめるかが大事なんですね。

川辺:そうです。正確な情報が取れないから結局、成約につながらなかったりとか、相手との関係性もできなかったりします。だから「営業力」って実はそれほど人間力があるかどうかも関係がないし、話がうまいかどうかも関係ない。それよりも、「戦略眼」と「観察眼」として紹介している、「まずは観察して相手が本当に何を求めているのか」という正確な情報を手に入れることのほうが大切です。

その中で戦略的に、例えば「今提案しても乗ってくれそうにないな。でもこれが1年後、2年と提案したら、乗ってくれるだけの関係性を築こう」など考えるわけです。戦略があれば、そこで成約しなくたって良いんです。その見極めのためには量が必要だという話を本書ではしています。冷静にやっておけば、誰でも「戦略眼」も「観察眼」も身につく。この本で伝えたい「営業力」はそういうことなんです。

川辺さんは編集者として常に膨大な量のインプットと、情報分析をされていますよね。その点でこの本の定義する「営業力」を川辺さんからも教えてもらっている気がします。

川辺:私には世間一般でいう「営業力」はほぼないですが(笑)、情報収集と分析力には長けていると思います。だからこそ、そこで戦うしかないと思っています。人脈があるわけでもないし、コミュニケーションがうまいわけでもないし、人間性もあるわけでもないから(笑)。

でも結局、そういうことよりも仕事で成果を得るためには大事なことがあります。それが「情報力」です。人間力という曖昧な能力や表面的な話術だけに頼っていたら、仕事はうまくいかない。

もちろん、そういうことも大事です。愛想がいいとか、明るいとか。でも明るいから仕事がもらえるというわけでもないですよね(笑)。私が伝えたいのは、誰でも磨ける「情報力」を「営業力」として備えることで、どんな仕事でも成果を出せるということです。<後編に続く>

次回は「営業力」を身に付けるために、普段から意識できることなど川辺さんの「情報力」の磨き方をご紹介します。どうぞお楽しみに!

また、川辺さんによる編集セミナーが4月5日(火)開催予定です。詳細はこちらをご覧ください。